昨日国立競技場で行われたゼロックス・スーパーカップはサンフレッチェが劣勢をはね返して追いつき、最後はPK戦を制して初優勝を飾りました。
怪我人続出のサンフは、大分戦と同じ先発メンバーでこの試合に臨みました。
木寺
森脇 ストヤノフ 槙野
青山 森崎浩
(→ユキッチ73分)
李(退場38分) 服部
桑田(→高萩45分)
佐藤寿 平繁(→久保57分)
SUB:下田、ダバツ、戸田、遊佐
対する鹿島の先発は天皇杯決勝と全く同じで、GK:曽ケ端、DF:内田、岩政(退場12分)、大岩、新井場、MF:野沢(→中後75分)、本山、青木、小笠原、FW:田代(→ダニーロ83分)、マルキーニョス。立ち上がりは鹿島の前からのプレッシャーがきつく、なかなかボールを繋げない展開が続きます。9分にはCKのクリアボールを小笠原がダイレクトボレーでシュートしましたが、ボールは幸いにも木寺が正面でキャッチします。強まる鹿島のプレスに広島は防戦一方となりましたが、しかし流れが変わったのは前半12分のことでした。ペナルティエリア内でボールを保持する木寺に対して岩政が後から忍び寄り、膝でボールを蹴って奪おうとします。しかしこれを非紳士的プレーと取られてイエローカード。7分にも佐藤寿を削って警告を受けていたため、2枚目ということで容赦なくレッドカードが提示されました。
1人少なくなった鹿島は青木をDFラインに下げ、守り重視の布陣に変更します。これで攻めを構築できるようになったサンフは、ツートップのコンビネーションで、あるいはサイドからの突破からチャンスを作ります。そして28分には森崎浩がミドルシュートを打ったもののGK正面。32分には李のクロスがそのままゴール枠を襲いましたが、曽ケ端がフィスティングで逃れます。鹿島も体勢を立て直して、34分には田代が、野沢がシュートを狙ってきます。そして38分、左サイドを突破した新井場に李がレイトタックルを浴びせてイエローカード。これが2枚目ということで退場になり、数的有利が無くなります。前半は両チームとも守備を重視した戦い方で、見せ場も多くないままに折り返すことになりました。
この状況を打開するため、先に動いたのはペトロヴィッチ監督の方でした。桑田に代えて高萩を投入して前線の起点となれる選手を増やし、森脇を右SBにした4バックに変更します。しかし練習でも試したことが無い布陣だったと言うことで混乱したか、マークのズレからピンチを迎えます。1分の内田のクロスは何とかクリアしたものの、4分にはこぼれ球を拾われ本山がシュート。ゴール前まで下がった槙野が飛びついて足に当てたもののわずかに及ばず、ついに先制点を許してしまいました。6分の内田からのクロスから田代と言う攻撃はオフサイドに助けられたものの、7分には自陣でのボール回しを奪われて小笠原がパス。これを野沢が豪快に叩き込んで、あっという間に2点のビハインドを背負うことになりました。
この後も鹿島は田代が、新井場がシュートを放って広島ゴールを脅かします。何とか反撃したいサンフは、後半12分に久保を投入しますが、これで流れが変わります。16分にはストヤノフのフィードボールに久保が競りあい、目測を誤った曽ケ端もとれずにあわやと言うシーンを作ります。17分にはペナルティエリア内で倒されたもののノーファウル。20分にもペナルティエリア内でボールキープするなど、高さとキープ力で鹿島の守備陣に脅威を与えます。ペトロヴィッチ監督は更に攻撃の姿勢を強めるためにユキッチを投入。彼の技術の高さと視野の広さで攻撃が加速します。そして33分、右サイドからドリブルで入り込んだユキッチがシュートと見せかけてスルーパス。これを受けた佐藤寿(高萩かも)が流したボールに行こうとした久保を青木が倒してPKを得ます。そしてそのボールを自ら蹴った久保が昨年の開幕戦以来のゴールを決めて、サンフは1点差に詰め寄りました。
田代に代えてダニーロを投入して、逃げ切りを図る鹿島。サンフは高い位置でボールをキープし、サイドから、あるいは中央から攻めを構築します。そして40分、左サイドを駆け上がった服部が左足でクロス。久保がDF2人を引き連れて空いたスペースに流れた佐藤寿が、のけぞりながら頭に当ててゴールに流し込みます。そしてその後は両チームとも勝ち越しを狙って激しく攻め合ったものの決定的なシーンを作り出すことが出来ず、PK戦で決着を付けることになりました。
鹿島の先攻で始まったPK戦。鹿島はマルキーニョス、中後、小笠原が決めたもののダニーロ、本山が外します。逆にサンフはユキッチは止められたものの森崎浩、ストヤノフ、槙野、佐藤寿が決めて、初めて国立競技場のメインスタンドで高くカップを掲げることが出来ました。
この試合のポイントは、怪我人続出でメンバーが揃わない中でどのように戦いを構築するか、と言うことだったと思います。選手個々の技術が高く組織的な完成度も高い鹿島は、どう考えても広島よりも実力上位。そこに対して守備重視の戦い方で臨むのはある意味当然で、前半はそのミッションを果たすことが出来ていたと思います。李の退場は余計でしたが、しかしその穴を突かれながらもDFラインが良く踏ん張って前半は試合を壊さずに済みました。
しかし後半、4バックに変更して守備が混乱した事が試合が動く要因となりました。1点目はクリアボールが本山のところに飛んでやや不運な面がありましたが、2点目は自陣でボールを繋いでいるところを奪われて、相手のキープレーヤーをフリーにして叩き込まれてしまっています。そしてその後も鹿島の攻勢をまともに受けて、3点目を失うのも時間の問題か、と思われました。
ところが久保の投入によって、試合の流れは再び広島に来ました。「規格外」のプレーこそ見せなかったものの懐の深さと高さ、動き出しの速さはさすが、とも言うべきもので、久保がいるだけで鹿島は引いてDFラインを固めるしかありませんでした。そしてそのため空いた中盤のスペースを上手く使ったのがユキッチで、ピッチを縦横に動いてリズムを作りました。この2人ともコンディションが今一つと言うことでベンチからのスタートとなりましたが、調子が上がれば間違いなく主力としてチームを引っ張る存在になることは間違いないでしょう。
そしてこの試合で最も重要なのは、キャンプで一度も勝てなかったチームが、PK戦の末とは言え勝利を得た、と言うことに尽きます。長丁場のJ2で、しかもフル代表や五輪代表に選手を引き抜かれる可能性を考えれば、昨日のようにメンバーが揃わない中で戦わなければならない、と言うことは今後も十分にあり得ます。そんな中でも我慢して試合を進めること、劣勢になっても諦めないで戦い続けることが、J1昇格を勝ち取ることができるかどうかの鍵である、と言えます。この、昨年はなかなかできなかったことが、シーズン最初の試合でチャンピオンチーム相手に出来たということは、チームにとって大きな自信になったのではないかと思います。スーパーカップを終えた今日からは、「J2」と言う現実に向けて、再びスタートしなければなりません。しかしサンフレッチェとしては14年ぶりの「優勝」と言う称号は、チームと選手にとって大きなものとなるに違いありません。