2014/08/10

STAP細胞問題

2/2にSTAP細胞関連の記事を書いてから、思わぬ展開が次々と起こったもので後始末ができないままに今になってしまいました。この間、いろいろな立場の人がいろいろな意見を述べていて、その中には同意できるものもあればできないものもある。本当はその中から自分なりの考えをまとめて披露できれば良いのですが、とてもこの流れについて行きつつ独自の考えを述べる、と言うことはできそうもないので、科学研究者の一人としての基本的な立場だけ書いておきます。

1) 正しいか正しくないか、は「自然」が決めるもの。研究者は実験事実の前には謙虚でなければならない。
2) 科学的業績と研究者の人間性は分けて考える必要がある。人間性に問題があるからと言って研究成果に問題があるわけではないし、いい人だから良い研究ができるわけでもない。また、良い研究者だって思い込みや思い違いによってミスをすることはある。
3) ただ、実験や解析の上でのミスと捏造は全くの別物。ミスは許されるが、捏造は研究者同士の信頼を損なうものであり、絶対に許されない。

この一連の問題の中で笹井さんがどんな役割を果たしたにしろ、自ら命を絶つ必要があったとは思えない。もし外的な要因によってそのような立場に追い込まれたのだとすれば、その人/組織こそ責められなければならない、と思います。一方の小保方さんは、もう一度学生から出直すべき。今からどんな実験結果を出しても、誰も信用しないと思います。

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2014/08/09

TRIUMF実験

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木曜日からカナダのTRIUMFに実験に来ています。このTRIUMFは500MeVの陽子サイクロトロンを持っていて、素粒子原子核実験から物質科学、医療応用まで幅広い実験が行われています。"Canada's national laboratory for particle and nuclear physics"と言う名前が示すようにもともとは素粒子実験のために作られたのだと思われますが、高エネルギー実験の主力部隊はCERNに行ってしまって、現在はそれ以外の実験がメインになっている模様。作られてから40年も過ぎた古い施設なのですが、ミュオンの実験施設としては世界に4ヶ所しかないうちの1つなので、ある意味貴重な存在です。私自身はこれまでミュオン実験の経験は無かったのですが、昨年から始まった「摩擦と潤滑」のプロジェクトで実験をすることになったので、見学を兼ねて実験にやって来ました。

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このTRIUMFはバンクーバー市内の西端にあるブリティッシュ・コロンビア大学のキャンパス内にあります。

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これがミュオンなどの中間子を使う実験ホールの入口。一応この中は飲食禁止と言うことになっているのですが、実験ホールのドアは開けっぱなしです。

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これが実験ホールの中で、正面の遮蔽体の中にサイクロトロンが収められています。年季が入ったコンクリートブロックが積まれている様子は、J-PARCのハドロン実験施設に似ています。

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これがミュオンの実験装置の上から見た写真。

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これは同じものを横から見ています。今回の実験は日曜日の朝までの予定で、タイヤの材料となるポリマーの運動状態を調べます。

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2014/02/02

彼女に注目するな

先日理研の小保方晴子博士らが発表した「STAP細胞」の論文の内容は、世界的な注目を集めるニュースとなりました。これまでは、一度成熟してしまった(分化した)動物細胞は二度と「万能細胞」には戻らない、と言うのが生物学の常識。再生医療を実現するためには分化する前の「ES細胞」を用いるか、あるいは遺伝子を操作して「iPS細胞」を作るしかない、と考えられてきました。これを例えて言えば「成熟細胞は初期化ルーチンを失っている」と考えられていた、ということ。山中さんの業績のキモは「初期化ルーチンが無いのであれば外から与えればいい」と考えて、遺伝子導入によってそれを実現してみせたことだと思います。胎盤から取り出さなければいけないES細胞とは違ってどんな細胞からでも作れるiPS細胞は、倫理的な問題を避けることができる。山中さんの2012年のノーベル賞授賞の理由は「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」でしたが、その裏にはローマ教皇庁からの「難病治療につながる技術を受精卵を破壊する過程を経ずに行えることになったことを賞賛する」と言うお墨付きがあったからだ、とも言われています。

このような中で今回の小保方さんたちが成し遂げた成果は、「成熟細胞でも初期化ルーチンが保存されていること」を明らかにしたことに尽きます。細胞が分化し成熟する過程で初期化ルーチンが消去されていたわけではなく、分化後にサブルーチンの中を回っていただけであることが分かったこと。成熟細胞にも初期化ルーチンがちゃんと残っていて、何らかの方法(今回は酸性溶液に浸すこと)で戻すことができることを示すことができました。これは山中さんのノーベル賞授賞理由とほぼ同じ内容の研究結果だとも言えるのですが、外から遺伝子に直接働き掛けることによって初期化されるのとは違って、もっと根源的なメカニズム(それこそ「神が何をしようとしていたか」)が分かったことになります。山中さんの「成熟細胞が初期化され多能性をもつこと」と同じ理由でノーベル賞は与えられないのが残念なのですが、研究成果としてはiPS細胞を遥かに越える業績であることは間違いなく、将来的に別の理由でノーベル賞が与えられることになるのは確実だと思います。

さて、弱冠30歳にして超特級の業績を挙げた小保方さん。彼女が素晴らしい研究者であることに異論はないのですが、ただ今後の行く末についてはいささか(と言うかかなり)心配にです。その第一の理由は、この結果があまりにもシンプルな方法によって得られたこと。彼女にしかできない実験技術やアイディア、あるいは超高価な実験機器を使ったわけではないので、この分野のどんな研究者にでも再現できる(であろう)ということです。競争が激しい分野ですから同じような研究をしているライバルは何千人も(もしかすると何万人も)いるわけで、その人たちは小保方さんをキャッチアップしようと一斉に同じ実験をしているでしょうし、またそのバリエーションの実験を始めているはず。となれば小保方さんが10年かかってもできなかったような実験が、ほんの数ヶ月でされてしまう可能性は高いと思います。今回作られたSTAP細胞は生後1ヶ月のマウスの細胞でしかできなかったそうですが、それがもっと成熟したマウスの細胞や、あるいは他の動物の細胞を使って実現すると言うことは、誰か他の人があっという間にやってしまうかも知れない。特にiPS細胞を扱っている研究者ならばヒトの細胞を使って同様の実験をする道具もスキルもあるので、ヒトの細胞でSTAPが発見されるのもそう遠くないことのように思います。だからといって彼女らの研究の価値が下がるわけではなくむしろ上がるのですが、しかし小保方さん自身の成果は今後尻すぼみになる可能性は高いのではないか、と心配します。

またそれ以外にも、今回のセンセーショナルな発表に伴う彼女を取り巻く環境の激変が研究に影響するのは避けられない、と思います。マスコミによる研究以外の面(例えば研究室のデザインがどうとか、割烹着がどうとか)についての報道はどんどんエスカレートするでしょうし、彼女の周りにこれまで知らなかったような「親戚」や「友人」「知人」が大量に現れて交通整理に困る、と言う状況も生まれるでしょう。専門分野に関わる講演依頼だけでなく専門外の分野や素人相手に至るまで様々な「お呼び」がかかるのも間違いないし、いろいろな大学や研究所のポストのオファーも山ほど来るに違いありません。その中から自分にとって役に立つものと立たないものを冷静により分けて対応できるかどうか。研究者を何年も続けて得られる「経験」がほとんどない若手研究者には困難な壁が、この先に幾重にも待ち構えているように思えてなりません。

彼女が所属する理研は大きな組織だし、彼女の上司もそう言う経験が豊富な人たちなので、そのへんのことについてはちゃんと考えていると信じたい。しかしながら、所属機関や周りのサポートだけでは対応しきれないことも多いのではないかと思います。将来性のある若手研究者が潰れてしまわないように、そしてより大きく成長できるように。それなりに経験を積んだ研究者の端くれとして、今は彼女をなるべくそっとして、より一層研究に専念できるようにしてあげて欲しい、と強く思います。

#いっそのこと、騒ぎが収まるまで外国に行って研究を続けた方がいいかも知れません。

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2012/11/06

「ソフトマター」発刊です

Yoneda_softmatter

数年前から少しずつ書いていた本が、ようやく出版されることになりました。タイトルは「ソフトマター〜やわらかな物質の物理学」。理系学部の1,2年生を主な読者として想定しつつ、高分子や液晶、コロイド、両親媒性分子や生体分子など様々なソフトマターを支配する基礎的な原理について解説しています。ここ数年ソフトマター物理の教科書はいろいろ出てきていますが、縦書の一般向け書籍としてはたぶん初めて。寝転がって、あるいは電車の中でも気軽に読めるような大きさと厚さで、しかも1,680円とお求めやすい価格となっています。ぜひ手に取って、読んでみて頂ければと思います。購入はamazon等でも可能ですが、「著者紹介」と備考欄に書いて出版社(米田出版)に直接申し込むと2割引になります。ご希望の方は注文書をこちらからダウンロードして、FAXまたはe-mailでお申し込みください。

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2011/05/10

Neutrons in Soft Matter

Neutrons in Soft Matter

3年前にKEKに赴任した直後に依頼され、ほぼ1年後に脱稿した本がようやく出版されて手元に届きました。元名大の今栄先生が中心になって編集された教科書で、中性子散乱によるソフトマター研究の全てが網羅されている?と言って良い本です。26人の著者による分担執筆なのでダブっている部分も多いのですが、1つ1つの章だけ拾い読みしてもだいたいのことは分かる、と言うメリットもあります。(と、思います。)amazonでは13,907円と厚さの割には安い?ので、興味のある方はぜひご購入下さい。(買ってもらっても、私に印税が入るわけではありませんが。)

因みに私が書いたのは"III.2 Structure Analysis"と言う章で、中性子小角散乱の原理と基礎的なデータ解析の方法について書いています。実は2000年にエジプト結晶学会に呼ばれて行った時に「本にするから書け」と言われて書いたものとほとんど同じなのですが、エジプト版の方は出版されたと言う話を聞かないのでたぶん大丈夫でしょう。むしろ、陽の目を見ないままお蔵入りになっていた原稿が本になって、良かったと思います。

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2010/05/14

物理学会誌の表紙

Butsuri1005

昨年PRLに掲載された論文の解説記事を物理学会誌に投稿したのですが、先日発行された5月号に掲載されるとともに表紙に採用されました。このような経験は初めてなので、素直に喜んでいます。

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2010/03/26

蠢く油滴

昨年出版された論文の解説記事が、News@KEKに掲載されました。

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2010/02/18

雪のKEK

white leaves

今朝は茨城には珍しく積雪がありました。KEKの中も真っ白で、いつもとは違う風景でなかなか印象的でした。

KEK building #4

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2010/01/04

新年の挨拶

wearing snow

今日、KEKの鈴木機構長が新年の挨拶をしたのですが、その中で「KEKの教員・職員は今年一度は社会に出て行って講演をすべし」と言っていました。KEKは大学共同利用機関として多くの税金を使わせてもらっているのですが、そこでやっていることを社会に還元し、国民に理解してもらうことが非常に重要である、と言う文脈です。私はそれについては大いに賛成で、私も機会があればできる限り講演を引き受けたいと思っています。

私がこれまで専門家以外の方に話した機会はそれほど多くはないのですが、高校生向けに模擬授業をした経験はありますし、Jリーグの選手を相手に話したこともあります。謝金は不要で、場合によっては交通費も要らないかも知れません。と言うことで、もしこれをご覧になっている方で私の話を聞いてみたい、と言う方がおられましたら、ぜひご連絡ください。

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2009/10/16

Press Release

KS君が行っていた研究がPRLに掲載されたのですが、それがKEKからプレスリリースとして発表されました。

http://www.kek.jp/ja/news/press/2009/kalibor.html

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